前回はバックカントリーの危険性についてご紹介したが、今回の記事からは実際にバックカントリーに行く際に準備しておくべき事柄についてインタビュー形式でご紹介していく。
乾海老雄(以降:海老):宜しくお願い致します。前回の記事では、バックカントリーエリアには危険が潜んでいることを実感しました。最悪なケースにならないように、しっかりと装備品を準備したいと思いますので、アドバイスをお願い致します!
竹尾(以降:竹):そうですね。前回の記事では、乾さんの甘い認識が露呈しましたので、今回の記事からしっかりとした知識を勉強していただき、バックカントリーの準備をしっかりと行えるようにして頂きたいですね(笑)
まず、バックカントリーのアイテムを準備する際には、4つのカテゴリーに分けて考えるのが良いでしょう。
1)専用のアイテム
2)代替え可能だが、できれば専用のものが良いアイテム
3)代替えが可能
4)その他消耗品等
順を追って説明しますと、
『1)専用のアイテム』はバックカントリー専用に設計された道具のことです。このカテゴリーのアイテムは非常に重要なので、アイテムをそろえることと同じように、そのアイテムを携帯する意味や、実際に使いこなすスキルが重要になってきます。
『2)代替え可能だが、できれば専用のものが良いアイテム』通常ゲレンデで使用しているアイテムを流用することが可能なアイテムを、このカテゴリーで紹介しています。代替えが可能ですが、物によっては安全性の観点から、流用せず専用設計のものを使用した方が良いアイテムもあるので、このカテゴリー製品まではしっかりとした物を準備しておくと良いでしょう。
『3)代替えが可能』普段ゲレンデで使用しているものをそのまま使用することができます。基本的な機能が備わっているウェアや、ブーツバインディング、ゴーグル等がこの部類に入りますね。
『4)その他消耗品等』食料や水、その他消耗品を中心にしたカテゴリーです。快適かつ安全にバックカントリーを楽しむためにも重要なカテゴリーになりますので、前日若しくは当日に忘れないように、ご準備頂ければと思います。
Contents
【1)専用のアイテム】
このカテゴリーで紹介するアイテムは、普段の生活や、ゲレンデでも使用しないような物で、バックカントリー専用のアイテムとなる。ここで紹介するアイテムに共通して言えることは、『しっかりと理解し、使いこなせるようになっておくこと』ということだ
海老:普段の生活や、ゲレンデでさえも使用しないようなアイテムであれば、購入価格も高価になりそうですね。最近では、ネット通販でもバックカントリー用品を購入できるみたいなので、通販を活用するのも良いかもしれません。
竹:安い価格で入手できるというのが、ネット通販の利点であると思いますが、注意して頂きたいのは、『自分が知っている商品を購入する』ということです。先にもお話しましたが、このカテゴリーで紹介するアイテムは買い揃えるだけでなく、使いこなせる必要があります。
ネット通販を否定するつもりはありませんが、知識を持った店員からちゃんとした説明を受けて購入するのと、簡単な説明文のみ読んで、購入するのとでは全然意味が違うということをご理解頂きたいですね。
必須3点セット(ビーコン・プローブ・ショベル)
海老:バックカントリーの必需品といえば、ビーコン・プローブ・ショベルですね。勝手に必須3点セットとグループ化してしまいました。
竹:これら3点は必須なので、その括りでよいと思いますよ。しかし、この必須3点セット以外にも、必須の道具はあるので、『ビーコン・プローブ・ショベルの3点持ってるからバックカントリーいけるよね』とはならないので注意が必要ですが。
【ビーコン】
海老:まずは、ビーコンですね。これは知っています。ビーコン同士で場所を特定できる装置ですよね。雪崩にあってしまった場合に、ビーコンの電波を頼りに相手のビーコンを探すんですよね?
竹:そうですね、そのように使用するアイテムという認識で間違いないです。むしろそれ以外の使い道はありません。ビーコンは雪崩対策には必要不可欠なアイテムなので、これは必ず携帯する必要のある道具です。また、ビーコンの使い方についてもしっかりと覚えておく必要があります。
海老:因みに、ビーコンには種類があるのでしょうか?
竹:アナログ式やデジタル式があるのですが、現在はデジタル式が主流ですね。また、デジタル式のなかでも、アンテナが1本から3本のタイプがあり、アンテナの数が多いほど値段が上がるとお考えいただいて良いと思います。アンテナが多いほど初心者の方にも操作しやすいので、迷った場合はデジタル・アンテナ3本を選んで頂ければよいでしょう。
海老:使い方は簡単ではなさそうですね。。。
竹:ビーコンの操作自体はシンプルなのですが、ビーコンを使った捜索については慣れが必要になりますので、しっかりと練習をして操作になれておく必要があります。そもそも、ビーコンというのは、雪崩で雪の下に埋もれてしまった際に救助してもらう、若しくは救助する際の信号を送受信するための機械です。そのため、的確な操作を行い、冷静に操作できなければ埋没者を発見することができず、大惨事になってしまうのです。
海老:素人ではどうにもなりませんね。我流で学習することは難しそうです。。。
竹:残念ながら、独学で習得するのは厳しいと思います。我々のようなバックカントリーガイドをご活用頂き、ビギナーツアーなどに参加して、道具の使い方についてレクチャーをうけるのが良いでしょう。
海老:転ばぬ先の杖。最初はしっかりとした知識をつけないといけませんね。
竹:バックカントリーエリアは安全が保障されていないので、いつ事故がおきてもおかしくありません。そのため、バックカントリーエリアに入る際には必ずビーコンの電源がONになっていることを確認する必要があります。電池が消耗している場合もありますし、機械が故障している場合もあるので、チーム内でしっかりと電源ONの確認と電池残量の確認は行ってほしいですね。
海老:私は、エコ意識が高いので、乾電池は充電式のエネループと決めているんですよ。家でしっかりと充電したヤツを使うので、大丈夫です!
竹:メーカーが推奨しているのはアルカリ乾電池なので、充電式の電池は使わない方が良いですね。出発前にコンビニなどで予備電池も含め購入しておいてください。
海老:でも、エコだし。。
竹:アルカリ乾電池に比べ電圧が低いため、本来の性能が出ない可能性があります。また、充電池によっては自己放電量が多いものもあるので、品質が安定しないということも使用を控えた方が良い理由です。エコの精神は素晴らしいですが、新品のアルカリ乾電池を買いましょう。
【プローブ(ゾンデ)】
海老:これは、一体何なのでしょうか?
竹:これはプローブといって、雪の深さを測るための棒です。ゾンデとも言います。定規のような目盛りが入っているので、おおよその深さを測ることができるのと同時に、雪の下に何が埋もれているのかを刺した感触で確かめることが出来るアイテムです。折りたたむとかなりコンパクトになるのですが、伸ばすと数メートルにもなります。
海老:例えば、埋没者を捜索する際に、ビーコンでおおよその位置を確認し、雪のしたの埋没者をこの棒でつついて探し当てる。ということですか?
竹:はい、そのようにして探し当てます。
海老:触感とおおよその位置情報で、どの深さにいるかもわからない埋没者を探し当てるなど、至難の業じゃないですか。
竹:その方法がメジャーな方法ですし、今ある方法の中で、一番有効な救助手段であることは間違いありません。なので道具を使いこなせるようにならなくてはいけないのです。
【ショベル】
海老:ショベルに関しては、雪を掘るだけなので専用設計でなくても良いと思うのですが。
竹:いえ、ショベルは重要ですよ。雪崩の救助や、雪濠堀り、雪質チェックなど、様々な用途に使用します。雪質が硬く、重い場合がありますので、簡易的なものではなく、金属製で作りがしっかりしたものを選んでください。
海老:なるほど、そこまで多用途に使うとは思いませんでした。ショベルにも色々と種類があり、プラスチック製のものは安価で購入できますね。大きさや形も様々ですが、どのようなポイントを意識すればよいでしょうか?
竹:雪崩が発生した時に、救助者を掘り起こさないといけないのですが、雪崩の雪が氷のように硬いときがあります。そのような場合には足で踏んで雪に食い込ませるため、大きめのサイズと、足の力が逃げないような形状(ショベルの角が角ばっている形状)のものを選ぶと良いでしょう。また、雪質によってはかなりの重量になるので、柄の部分も含めて、金属を多く採用した耐久性の高いショベルを選ぶと良いと思います。
スノーシュー/ポール
海老:これは、雪国ではおなじみの『かんじき』ですね。
竹:そうですね、同じ系統のアイテムではありますね。
海老:スノーシューは長靴などに装着し、森の中を散策するスノートレッキングでも使用したことがあります。これを装着すると雪の上を歩きやすくなった記憶があるのですが、スノートレッキング用やホームセンターで売っているものでは流用出来ないのでしょうか?
竹:バックカントリーはスノートレッキングと違い、傾斜のある場所を長時間登り続けますし、より過酷な環境で使用するとお考え下さい。そのため、より頑丈に設計されているので、専用設計のものをおススメしています。
海老:専用設計といことですが、特徴的な部分はどのようなところでしょうか?
竹:まず、ヒールリフターという機能。これは、カカト部分がせりあがる仕掛けなのですが、上り傾斜をハイクアップするさいに、とても重宝する機能です。これがあると無いとでは全然疲労感が違いますので、必ずヒールリフターのあるモデルを使用して頂きたいですね。また、雪面に食い込ませる用の歯(スパイク)がスノーシュー全面についているモデルも、専用設計と言えるでしょう。
海老:スノーシューの価格を調べると、ピンからキリまでありますね。値段の違いによる性能差というのは大きそうです。。。
竹:そうですね、性能差は大きいと思いますよ。特に価格が高いモデルは、歯がついている面積が大きく、スノーシューの幅いっぱいにせり出しているものがあります。歯の面積が大きければその分、安定感は上がりますし無駄な体力消費を抑えることができます。また、着脱が簡単なBOAタイプが採用されているものもありますので、細かい部分までチェックしてから購入するのが良いかもしれません。
海老:このポールというのは、スキーでいうところの、ストックと同じものですか?
竹:形は似ているのですが、別物ですね。このポールは滑走する時には使用せず、ハイクアップする際に使用します。そのため、滑走時にジャマにならないように、収縮するように設計されており、軽量にも作られています。
海老:ポールを使用せず、スノーシューのみ装備した状態でハイクアップは厳しいのでしょうか?
竹:疲れ方が全然違うので、ポールを使用することをおススメしています。バックカントリーでは、体力の温存というのが非常に大切になってきますので、一見必要なさそうな物でも、実はとても重要だった。ということはよくある話です。
バックパック
海老:バックカントリーで使用するバックパックにもいろいろな機能と秘密が隠されていそうですね。
竹:秘密ではないのですが、一般的なバックパックを選ぶポイントとは違う観点でバックパックを選ぶので、注意が必要ですね。まず、街中で使用するバックパックよりも身体に密着させて使用しますので、バックパックと身体の間に空気がこもらないようにする機能があるものを選ぶとよいでしょう。
バックカントリーでは、徒歩で雪山を上がりますので、かなり汗をかきます。その際に、通期が良いことは快適性を向上させるためだけではなく、無駄な体力を使わなくて済むというメリットもあるので、重要視して頂きたいポイントですね。また、バックパック内部の荷物を取り出す際に、前面からでも背面からでもアクセスできるような機能を持つ製品もあります。バックカントリーでは荷物を多く持ち運ぶので、素早く目的の荷物にアクセスできるというのは非常に重要なことなのです。このアイテムは体格によって合う合わないが出てくるので、できれば、専門店で試着をしてから購入するのが良いでしょう。
海老:大体、何リットルくらいのサイズを購入すれば良いのでしょうか?
竹:日帰りか、一泊するのか、また、どのような装備を持って行くのかで変わりますが、
15リットルでサイドカントリー
25リットルで行動時間が短めのバックカントリー
35リットルで行動時間が長めのバックカントリー、グループリーダー
45リットルで泊まり
というイメージを持っていただければよいのではないでしょうか。
海老:35リットルの説明に『グループリーダー』というのがありますが、それは何でしょうか?
竹:バックカントリーは基本的にチームで行動しますので、その中で経験豊富はメンバーやその場所に詳しい人をリーダーとして移動します。リーダーは各メンバーが持っている装備以外にも、スノーソーやツェルト(簡易テント)、応急救護セットなどを持参するので、他のメンバーよりも大きめのバックパックが必要になります。
海老:これからバックカントリーに挑戦したい方は、35リットルを購入するのが無難そうですね。
竹:そうですね。35リットルで良いと思いますよ。『大は小を兼ねる』という言葉があるくらいですから(笑)
海老:因みに、バックパックには『スノーボード専用・スキー専用』というジャンル分けはあるのでしょうか?
竹:そうですね。専用設計というのは存在します。特に、スキー専用のものにはスノーボードを取り付けることができません。逆にスキーが取り付けできなないスノーボード専用設計というのもあるでしょう。ガイドやリーダーは他のメンバーのサポートを行う場合があるため、スキーもスノーボードも両方とも装着できるバックパックを使用することが多いですね。バックパックを購入する際には、『何が取り付け可能なのか』をチェックしておいてください。
海老:『今はスノーボードだけど、将来的にはスキーに転向するかも』というかたは、両方使えるバックパックを選ぶのが良いかもしれませんね。
スノーソー
海老:これはノコギリですか?
竹:そうですね。雪を切るためのノコギリです。コンパクトに設計されているため、リュックの中にいれても邪魔にならないですし、雪の断面をきれいな状態で切ることができるので、雪崩チェックを行う際には必需品になります。『各自が必ず携帯しなければならない。』というものではなく、パーティーにひとつあれば良いのですが、専用設計のものを持参するのが良いため、ここのカテゴリーに入れました。
海老:さすがにこれは代用品というわけにはいかなそうですね。また、使う際にも知識と経験が必要そうです。
竹:そうですね、スノーソーで雪の断面をチェックしても、100%雪の状況を把握できるわけではありませんし、雪崩を予測することは難しいです。雪の状態を把握するためには、事前に情報収集が必要ですし、他にも予備知識が必要なので、『スノーソーを買ったから、雪崩チェックできるぞ』とはなりません。ガイドやリーダーなど経験豊富なメンバーにその辺は任せることにしましょう。
【2)代替え可能だが、できれば専用のものが良いアイテム】
ここのカテゴリーでは『代替え可能だが、できれば専用のものが良いアイテム』をご紹介する。通常ゲレンデで使用するスノーボード用品や、スキー用品をそのまま流用するなど、『決して専用設計である必要のない物』が入ってくる。しかし、専用設計のアイテムはその分使い勝手が良いので、予算に余裕があれば、専用設計のアイテムを検討してみるのも良いだろう。
板
海老:やはりハックカントリー向けの板を選ぶのが良いのでしょうか?
竹:正直な話、バックカントリー向けの板や、フリーライド向けの板でなくてもパウダーライディングをすることはできます。よほど特殊な形状のフリースタイル板でなければ、流用することは可能なのですが、パウダーライディングに特化したような板は操作性が全然ちがいます。ターンの大きさもコントロールしやすくなるので、ラインを選ぶ自由度も高くなりますし、何より疲れづらいというのが大きなメリットですね。番亭ではK2のテストセンターも併設しているので、バックカントリー向けの板に興味があれば、それを使用していただく事もできますよ。
ウェア
海老:ウェアに関しては、バックカントリーで使用することを想定して設計されたものを選ぶのがよさそうですね。
竹:そうですね。バックカントリーでの使用を考慮に入れたウェアと、そうでないウェアとでは大きな違いがあります。まず、防水性が高いという点。特殊素材を使用することで、通気性を確保しながらも外からの水分を中に入れないという機能があります。昨今のウェアは比較的安価なものでも、防水性が高い物がありますが、目安となるのは、防水10,000mm以上の物を選ぶと良いでしょう。また、ウェア自体の生地が薄く作られていることも重要です。バックカントリーでは、長時間のハイクアップを行う際に、ジャケットを脱ぐことがあるのですが、脱いだ状態でかさばらないように設計されているものが良いでしょう。
海老:昨今はタイトなシルエットのウェアが多いような気がします。バックカントリーではタイトなウェアは不向きなのでしょうか?
竹:ダボダボなウェアもタイトすぎるウェアもバックカントリーには適さないと思いますね。丁度良いサイズのウェアが一番なのですが。。。実際に装備品を装着して、動きが制限されないようなサイズ感であれば問題ないと思います。
インナー
海老:インナーはユニクロのヒートテックを使っています。これは温かくて大好きなんですよね。
竹:ヒートテックいいですよね。私も持ってますwしかし、バックカントリーでの使用はあまりおススメしません。
海老:温かいのに。。。。。
竹:ヒートテックに代表されるような、汗を熱にかえるタイプのファーストレイヤーは街の中で使用することを想定して作られている場合が多いです。
汗を熱にかえる機能を重視しているので、『素早く汗を放出し、身体をドライな状態に保つ』という機能自体を設計に入れていない場合が多く、バックカントリーのような環境では逆に身体を冷やしてしまう恐れがあります。
海老:汗をかく→かいた汗が放出されず、服のなかに残る→外気で冷やされ冷たくなる→体温が下げられ、体力を消耗する という流れでしょうか?
竹:概ねそのような流れですね。温かさよりも、速乾性と快適性を重視した登山用の肌着を選んで頂くのがよいでしょう。
海老:セカンドレイヤー(ファーストレイヤーとジャケットの間に着るもの)についてはどうでしょうか?
竹:体温調節目的で使用するのが殆どですので、脱いだ時にかさばらない薄手の服が良いですね。フリース素材のものは比較的軽いのでおススメですよ。
グローブ
海老:グローブにはミトンタイプ・五本指タイプ・三本指タイプと様々な種類がありますが、どのようなタイプがバックカントリーに向いているのでしょうか?私はミトンタイプを長年利用しているのですが。
竹:そうですね。五本指タイプが無難なところではないでしょうか。ミトンタイプは温かいのですが、細かい作業がやり辛く、いちいちグローブを外さないといけないですからね。バックカントリーではバックパックの開閉や、ストラップの締め付けなど頻繁に道具の調整を行います。その際に、ミトンタイプだと作業がやり辛くなってしまうので、指先が自由に動く薄手のグローブを別に用意しておくのが良いかもしれません。
【3)代替えが可能】
普段ゲレンデで使っているアイテム、もしくは、家の中にあるもので代用が可能なものが【代替え可能なアイテム】だ。アイテムによっては、『代用品ではなく、普段使い慣れたものの方が良い』という場合もあるので、注意が必要。
ブーツ
海老:ブーツは普段使い慣れたものを使用したほうがよさそうですね。ちなみに、バックカントリーはフリーランがメインになると思いますので、ブーツはフリーランに適した硬めのブーツを選ぶのが良いのでしょうか?
竹:いえ、フリーランが多いのは事実なのですが、ハイクアップもありますし、普通のフレックスか少し柔らかめのブーツを選ぶ方がよいでしょう。普段ゲレンデで使っているブーツをそのまま使う感じで良いと思いますよ。
バインディング
海老:バインディングも普段使っているものを流用しても問題ないですよね?
竹:そうですね。ブーツとの相性があると思いますので、普段ゲレンデで違和感なく使えているのであれば、同じものを使うのが良いと思います。
海老:他にも何か注意点などありますか?
竹:バックカントリーに限った話ではないのですが、滑り出す前にはしっかりとバックルやラチェット、ラダーなどの可動部分をチェックして頂きたいですね。念のために、ビスやスペアパーツも持っておくと安心です。
ゴーグル
海老:バックカントリー用のゴーグルって見たことないので、これはゲレンデで使用しているゴーグルを流用するしかないですね。
竹:そうですね。ゲレンデで使用しているもので、全く問題ないです。注意して頂きたいのは、2つゴーグルを持参するということです。スペアレンズではなく、ゴーグルを2つ持って行くというのが大切になってきます。
海老:何故2つなのでしょうか?
竹:滑走中に転んでしまうと、高い確率でゴーグルの中に雪が入ります。一度濡れてしまったゴーグルを雪山で乾かすのはほぼ不可能なので、スペアのゴーグルが必要になります。無ければ、バックカントリー用に激安ゴーグルを一つ購入しておくのも良いかもしれませんね。
プロテクター類
海老:プロテクターは賛否わかれるところかと思います。防御力上げてくれますが、動きが制限されそうで、私はあまりつけたくないな、というのがありますね。
竹:長時間のハイクアップをしますので、動きやすい装備を選ぶのは鉄則なのですが、不安が残るようであれば、装着するのも良いと思います。ヘルメットに関しては、そこまで動きやすさに影響しないと思うので、装着して頂くことをおススメしています。
【4)その他消耗品等】
最後に紹介するのは【その他消耗品等】だ。少々乱暴にグループわけしたのだが、どれもバックカントリーには欠かすことのできないアイテムなので、選ぶ際の要点を押さえ、装備品の中に加えて頂くようにしてほしい。
水筒
竹:出来れば水筒は2つ持って行くと良いと思います。1つは温かい飲み物用。2つ目は冷たい飲み物用です。バックカントリーは汗をかきますので、常に水分補給をする必要があるのですが、冷たい飲み物ばかり摂取していると、体が冷えてしまいます。たまには温かい飲み物で身体を内側から温めてあげることも必要ということですね。
海老:水筒はどのようなタイプのものが良いでしょうか?
竹:一般的な魔法瓶とよばれる保温性に優れたものを選んで頂きたいですね。大きさは、500mlもあれば十分だと思いますが、あまり大きすぎるものはやめておいた方が良いでしょう。あと、蓋がコップになっているタイプの水筒は、どれくらいの量を飲んだか、あとどれくらい残っているか、が把握しやすいのでおススメですね。バックカントリー愛好家の間では、サーモスやモンベルの登山向け魔法瓶が人気です。保温力が違いますし、扱いやすくて良いモデルだと思いますよ。
海老:コンビニとかでスポーツ飲料買って、そのまま持って行くのはダメですよね?
竹:氷点下の世界を長時間歩きまわるので、ペットボトルでは中身が凍ってしまう恐れがあります。また、冷たすぎる飲み物は体温を下げてしまうので、魔法瓶を用意するようにしてください。また、温かい飲み物はお湯を持って行くのが良いでしょう。
海老:お湯ですか。ココアを持って行きたいのですが。。。
竹:ココアを飲みたい場合は、都度ココアの粉をコップに入れてお湯を注げば飲めるじゃないですかw メンバーのだれかが転倒し切り傷をおってしまった際に、お湯で傷口を洗い流すことができますし、色々な用途に使用することができるので、お湯で持って行くことをおススメしますね。
簡易食料
海老:簡易的な食糧を携帯するのは理解できるのですが、何を持って行けばよいのでしょうか?
竹:カロリーメイトのような高カロリーでコンパクトな食糧でも良いですし、基本的には自分の好きなものを持ってくれば良いと思います。
海老:先日スーパーでトレイルミックスというのを見つけました。ナッツとドライフルーツの詰め合わせみたいな商品で、名前からしてバックカントリー向きの携帯食だなと。それとチョコレートでも持って行けば十分でしょうか?
竹:そうですね。トレイルミックスはおススメです。チョコレートも糖分補給になるのですが、春先など暖かい気候の時には溶けてしまう場合もあるので、持ち込むときには注意が必要ですね。
工具
海老:工具は、普段ゲレンデで使用しているドライバーなどを持って行けばよいでしょうか?
竹:基本的には自分で使用する道具をメンテナンスするのに使いますので、自分の装備に使用できる工具が必要になります。工具も持っているだけでは意味がないので、事前にその工具で自分の装備品をメンテナンスできるかどうか、しっかりとチェックしてから出発して頂ければと思います。
携帯電話
海老:携帯電話(スマホ)は必要なのでしょうか?電波届かないような気がします。
竹:一応持って行く、程度の感覚ですね。電波が入る場合もあるので、万が一の時には役に立つときもあります。そこまで邪魔にならないですし、写真とったりムービー撮ったりできるので、あると何かと重宝すると思いますよ。
筆記用具/地図
海老:地図の入手は難しいですね。国土地理院の地図とか必要なのでしょうか?
竹:リーダーやガイドは詳細な地図を持参する必要はありますが、メンバーに関しては簡易的な登山マップ位で良いでしょう。山に登るときに麓で入手できそうな場合は念のため1枚はもらっておくと便利です。
コンパス
海老:これは、地図とセットで使用するものですよね。
竹:そうですね。基本的には地図とセットで使用しますね。ガイドやリーダーが進むコースを選び、先導していくので、メンバーが地図やコンパスを使う場面はそこまで多くはないのですが、はぐれてしまった場合や、何かしらの理由で一人で行動しなくてはいけなくなった際に、必需品となりますので、使い方を覚えておくのが良いでしょう。あと、磁力のそばに長時間コンパスを放置しておくと、方角が狂ってしまうことがあるので、入山前にはしっかりと方角の確認を行ってくださいね。
サングラス
海老:やはり目の保護というのは大事なのでしょうか?
竹:とても重要です。雪山は標高が高く、日差しも強いです。目の保護を怠ると、目が焼けてしまい視界が悪くなってしまいます。人里離れたバックカントリーで目が焼けてしまうのは危険極まりないので、サングラスは必ず持参してください。
海老:荷物増えるので、ゴーグルではダメですか?
竹:ダメです。ゴーグルだとハイクアップの際に曇ってしまい、肝心な滑走のときに使いものにならなくなってしまいます。スポーツ用のサングラスでなくとも、ホームセンターなどで入手できるサングラスでも良いので、用意するようにしてください。
救急セット
海老:救急セットは知っているものの、実際に買ったことはないです。避難バックの中に入っていたような。。。やはり、セットで販売しているものでなくてはいけないのでしょうか。
竹:一応、念のために持っておくと良いと思いますが、お店等で入手できなければ、絆創膏と消毒液、痛み止めなどをビニール袋にまとめておくのでも良いです。応急処置だけできればよいので。
日焼け止め
海老:日焼け止めは重要ですね。紫外線はお肌の天敵です。
竹:山の紫外線は強力ですからね。何も対策をしないと日焼けして火傷みたいになってしまいますので、しっかりとスキンケアをして頂きたいですね。
海老:ここまでご紹介頂きまして、ありがとう御座いました。一通りご説明頂いて、バックカントリーの厳しさというか、緊張感を感じることが出来ました。
竹:怖さとか、厳しさという言葉だけが先行してしまうと、バックカントリーに対してネガティブな印象を持ってしまうかと思いますが、基本的にはとても清々しく楽しいものというイメージを持っていただきたいですね。正しい用具を選んで頂き、しっかりと知識を付けて頂ければ、危険もある程度は回避することができますので、わからないことがあれば、ガイドに聞いて頂ければと思います。
次回は、竹尾氏が主宰する、番亭のバックカントリービギナーツアーの体験レポートをご紹介する。
※バックカントリーの危険性についての記事はこちら
今回、取材にご協力頂いたのは、長野県は白馬に拠点を置く、バックカントリーツアーの番亭だ。
バックカントリーガイドとして確かな技術と豊富な経験をもつ竹尾氏が白馬エリアを中心にレベルに応じたツアーを企画してくれる。
白馬エリア(その他のエリアでも出張可能)でバックカントリーツアーをお探しであれば、番亭に相談してみよう。
元スノーボードインストラクターのIT系Webライター
長野や北海道、マウントフッド(アメリカ)、ウィスラー(カナダ)等
様々なスキーリゾートを転々とした後、東京に落ち着く。
現在はWeb制作を行う傍ら、スノーボード系のライティングを行う日々。
妻と娘の3人家族の35歳。
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