16世紀よりヨーロッパの王侯貴族を魅了し、大英博物館やルーヴル美術館に今も所蔵されている日本の漆器。天然の漆が放つ気品ある艶と、金銀で描かれた装飾の美しさは、世界中で高い評価を得ています。本記事では、日本の漆器について基本的な内容から漆器選びのポイントまで解説します。日本の「美の結晶」ともいえる、お気に入りの漆器を見つけるヒントを探してみてください。
Contents
漆とは?日本の漆器とは?
漆器は、木や竹などの素地に天然漆を何度も塗り重ねて作られる日本の伝統工芸品です。自生する漆木から採取される樹液を丁寧に塗り重ねることで強度が増すため、耐久性、耐熱性、防水性に優れています。漆器は、千年以上腐らない耐久性を持ち、文化財として高い保存価値があります。約120〜180度までの耐熱性と防水性により、食器として実用的です。
使用による艶と気品ある輝きから、美術品としても重用します。漆器には、抗菌作用があり実用面でも安心です。世界的な評価は高く、英語圏では漆器を指して「Japan」と呼ぶほどの認知度があります。現代では、茶碗などの日用品から装飾品まで、漆器は多彩な用途で活用されています。
漆器の歴史とジャパニング
ヨーロッパ人が日本の漆器の魅力に気がついたのは、数百年以上も前のことです。ここでは、漆器の歴史と海外とのつながりを紐解きます。
漆器との出会い
16世紀の大航海時代、ヨーロッパ人は日本の漆器を目にして驚き、魅了されました。
漆器の艶やかな輝きと精緻な装飾は、卓越した日本の工芸技術を世界に示すことになり、漆は英語で「japan」(小文字)と呼ばれるようになりました。安土桃山時代には、豪華な螺鈿や蒔絵を施した「南蛮漆器」がポルトガルやオランダの商人を通じてヨーロッパへ渡ります。江戸時代に入ると、オランダ貿易で「紅毛漆器」が輸出され、黒地に金銀蒔絵を特徴とする様式が定着します。
ジャパニング(japanning)技法の誕生
日本の漆器に魅了された17世紀のヨーロッパでは、漆器を模倣した「ジャパニング(japanning)」技法が誕生。天然漆の代わりに樹脂を用いたジャパニングは、なんと現代のピアノの黒艶仕上げにも影響を与えているのです。漆器は、世界で最初に認められた「Made in Japan」ブランドの証として歴史に刻まれています。
出典:kuuemon|漆が英語で「japan」と呼ばれる理由
日本一の漆器の世界
日本の漆器は、長い歴史の中で各地域に特色のある漆器が育まれました。輪島塗や山中塗、会津塗など、産地ごとの個性は日本の漆器文化の豊かさそのものです。代表的な産地で作られる「日本三大漆器」や「日本四大漆器」は日本一の漆器と言っても過言ではありません。新たな技法を確立した産地を加えた四大漆器まで、時代の流れとともに、漆器の世界は今なお日本中で広がりを見せています。
日本三大漆器・日本四大漆器とは?
日本三大漆器は、山中塗・輪島塗(石川県)、会津塗(福島県)、紀州漆器(和歌山県)を指します。日本三大漆器に越前漆器(福井県)を加えた四つを日本四大漆器と呼びます。それぞれの特徴をみていきましょう。
山中塗・輪島塗 (石川県)
石川県が誇る「山中塗」と「輪島塗」は、それぞれ独自の特徴を持っています。山中塗は「木地の山中」と呼ばれ、木目の美しさを活かした自然な表情が特徴です。木が育つ方向に器を作る「縦木取り」という技法により、乾燥による歪みが少なく、頑丈さに優れた漆器として知られています。
「塗りの輪島」として名高い輪島塗は、とくに耐久性に優れており、100を超える丁寧な工程を経て作られます。美しい光沢と華麗な装飾が際立ち、丁寧に使うと世代を超えて受け継げるほどです。
出典:KOGEI JAPAN|輪島塗
会津塗 (福島県)
福島県の会津塗は、丈夫な塗りと華麗な加飾が特徴です。伝統的な会津絵(漆器の表面に色漆を塗り重ね、さらに金や銀の粉を使って模様を描くこと)や沈金(漆器の表面を彫り、その部分に漆と金粉を沈める技法)による装飾とともに、現代的なデザインも積極的に取り入れ、日常使いに適した漆器として親しまれています。
画像出典:経済産業省東北経済産業局|東北の伝統的工芸品
紀州漆器 (和歌山県)
紀州漆器は、江戸時代から和歌山県海南市黒江地区で栄えた伝統的工芸品です。特筆すべき技法は「根来塗」です。黒漆の下塗りに朱漆を重ねる製法で、使い込むうちに朱が自然に摩耗して黒が浮かび上がることから、独特の趣が生まれます。明治時代には貿易を開始し、沈金や蒔絵など新たな装飾技法も取り入れました。現代では伝統的な木製品から樹脂製品まで、日用品から美術品まで幅広いラインナップをカバーしています。
シンプルで丈夫、実用的という特徴を守りながら、昭和以降は天流塗やシルク塗など革新的な技法も確立。1978年には経済産業省指定の伝統的工芸品となり、日本を代表する漆器として評価を得ています。
出典:紀州漆器の里からうるわし漆|紀州漆器について 紀州漆器の歴史
越前漆器 (福井県)
古墳時代から1500年以上の歴史を誇る越前漆器は、控えめな光沢が特徴的な漆器であり、伝統的工芸品にも指定されています。繊細な漆塗りによって生まれる上品な趣に加え、金銀の蒔絵装飾を施した華やかな品も。祝儀用調度から箸、汁椀まで、日常使いから特別な場面まで幅広い用途に対応します。
画像出典:福井県産業労働部商業・市場開拓課|越前若狭の伝統工芸品
出典:JTCO日本伝統文化振興機構|福井編伝統工芸品
伝統的工芸品に指定されている漆器
日本一ともいえる「日本4大漆器」のほかにも、日本には魅力的な漆器があります。ここでは、伝統的な工芸品に指定されているユニークな漆器を紹介します。
京漆器(京都)
三大漆器、四大漆器には含まれませんが、伝統的工芸品指定を受けている京都の漆器はぜひ注目したい存在です。京漆器は、長い宮廷文化に育まれた気品と、「わびさび(つつましく、質素なものにこそ趣があると感じる心のこと)」の美意識が融合した優美なデザインが特徴。京漆器独特の雅やかな雰囲気は、国内外で高い評価を得ています。静謐な趣(心が落ち着くような静かな美しさ)と優美さを兼ね備えた京漆器は、日本の美意識の精髄ともいえるでしょう。
画像出典:京都漆器工芸協同組合
津軽塗(青森県)
青森が誇る津軽塗は、漆を数十回以上塗り重ねて研ぎ出す独自の技法で、類まれな輝きと堅牢性(しっかりしている)を実現した漆器です。津軽塗を代表する塗り方は、唐塗、七々子塗、紋紗塗、錦塗の4種類です。唐塗(からぬり):独特の斑点模様が特徴で、漆の深みと艶を最大限に引き出す津軽塗の代表的な技法です。
- 七々子塗(ななこぬり):菜種を蒔いて小さな輪文を浮き上がらせます。
- 紋紗塗(もんしゃぬり):炭粉を用いて独特の質感と深みを生み出します。
- 錦塗(にしきぬり):七々子塗の技法をベースに、さらに複雑な装飾を加え豪華で華やかに仕上げる高度な技法です。
4つの伝統技法が織りなす色の深みと繊細な模様は、見る者を魅了します。
画像出典:経済産業省東北経済産業局|東北の伝統工芸品
経済産業大臣指定伝統的工芸品として1975年に認定され、現代では海外ブランドとのコラボレーションも進み、実用と芸術を極めた日本の美意識を世界へ発信中です。
出典:津軽塗青森県漆器協同組合連合会|津軽塗
目的に応じて漆器を選ぶ方法
漆器選びのコツを押さえておくと、いざ購入するときに参考になります。もし最高級の漆器をお探しなら、京都の漆器がおすすめです。老舗の目利きと確かな品質で知られ、茶道具や美術品として価値の高い漆器が充実しています。実用的な漆器なら、耐久性に定評のある輪島塗が有力候補です。記念品や贈答用には、会津塗が魅力的です。装飾性と手頃な価格を両立した品が充実しています。
漆器のアイテムによる予算も確認
漆器を選ぶ際は、予算を決めておくことをおすすめします。5万円以下では、現代的なデザインの汁椀や箸、小皿、弁当箱などが見つかります。5万円から20万円では、豪華な蒔絵が施された盆や飾り皿など、伝統技法を活かした逸品も入手可能です。
20万円以上になると、茶道具や宝石箱など、美術的価値の高い作品との出会いが期待できます。
日本の文化を象徴!本漆の金継ぎでお手入れも可能
日本の文化を象徴する漆器は、適切なお手入れを通じて世代を超えて受け継がれる魅力があります。日常のお手入れでは、使用後に水や中性洗剤で優しく洗いましょう。ただし、食洗機の使用やつけ置き洗いは、漆器に傷がついたり、傷のある部分から水分が染み込む可能性があるため、避けるようにしてください。
また、保管時の温度については人が快適に暮らせる温度(18~28℃)であれば問題ありませんが、湿度には注意が必要です。20~30%程度の湿度の場合、棚の上段は避けて下段に入れるなど、湿度が極端に低い場所には保管しないようにしましょう。
直射日光や暖房器具から遠ざけつつ、器を適宜使うことでより風通しの良い場所に出すことができます。
万が一、傷んでしまった場合は、全面的な塗り直しをおすすめします。
割れたり、欠けたりしたときは日本の伝統的な修復技術の「金継ぎ」で修復します。金継ぎは、傷を金で修復し、新たな美しさを生み出す方法で、漆器の価値を高める芸術的な修復技術です。各産地には専門の修理工房があり、損傷の程度に応じた修理や費用の見積もりが可能です。輪島塗なら、輪島塗 ぬり工房楽で修理でき、会津にある合名会社関漆器店 会津ぬり一(創業110余年)では会津塗りに限らず、漆器全般の修理をおこなってくれます。
日本の漆器の魅力を手にとって実感
日本各地域の漆器には、土地にゆかりのあるオリジナリティがあり、職人たちが丁寧に手がけた作品は、世代を超えて受け継がれています。漆器との出会いは、日本での時間を趣深い文化体験に変える貴重な機会です。日本の漆器を手に入れることで、日本文化の一部を肌で感じてみませんか。
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