スノーボード

春先で板を走らせるメンテナンステクニック

春先で板を走らせるメンテナンステクニックの画像
7,517 views 2018-4-12 UPDATE

毎年3月を過ぎると『春先の雪では板が滑ってくれない。どうにかならないか?』という質問をうけることがある。
私がスノーボードを始めた20年前から毎年恒例のように出てくる話題なので、皆様相当苦労なさっているのだろう。

仕事柄、スノーボード業界で働く方にお話を伺う機会があり、こちらも色々な質問をぶつけさせて頂くのだが、その際に『春先のメンテナンスってどうやってます?』という質問も入れるようにしている。

今回の記事では、それら多くの業界の方々(プロスノーボーダー・ショップ店員・サービスマンなど)から伺ったメンテナンス方法をご紹介したいと思う。

因みに、ワクシングやチューンナップのやり方や理論に関しては色々な考え方があると考えている。今回の記事でご紹介する内容に関しても、『スノーボードに詳しい人達が教えてくれたテクニック』であって、正解とは考えていない。
もし、記事で紹介する内容が貴方の理論ややり方と違っていても、『まぁ、そんなやり方もあるよね』程度に考え、寛大なお気持ちで読み進めて頂ければ幸いである。

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春先で板が走らなくなる理由

春先で板が走らなくなる理由はいくつかあるのだが、今回の記事では下記2点を重要点として解説していく。
以降でご紹介するおススメのメンテンスメニューもこの2点についての対策とお考え頂きたい。

 

走らない理由1:多様なコンディション

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春先の斜面や雪質はハイシーズンのものと比べて複雑な状態となる。
それは、ハイシーズンに比べて朝と日中の気温差が激しく、『朝一番はカリカリのアイスバーン、昼過ぎにはシャバ雪』というような状態になりやすいのだ。

丸まったエッジではアイスバーン上でグリップすることは難しいし、ザラメ雪では、荒れた滑走面の抵抗が大きくなる。
『春用のワックスを塗ったから、春先のゲレンデではばっちり走るハズ』と意気込んでも、滑走面とエッジのメンテンスをしていないと、思わぬ所で落とし穴にハマる可能性がある。そのため、春先で変化しやすい斜面コンディションに対応するために、春先向けのワクシングに加え、滑走面のメンテナンスもしっかりと行う事が大事になってくる。

 

走らない理由2:滑走面に付着する汚れ

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春先で丸一日滑った後に滑走面をクリーナーで拭くと、ハイシーズンでは考えられないくらいの汚れを見ることができる。汚れの正体は、花粉・黄砂・草木や落ち葉の樹液が主なところだ。この『汚れ』はどいつも厄介な存在なのだが、特に春先のスノーボードの大敵は『樹液』と、知っておいていただきたい。

樹液の成分には油分が含まれており、この油分が滑走面のワックスに吸着することで、滑走性能が衰えてしまう。滑走面にワックスの取り残しがある場合、樹液が吸着しやすくなるため、しっかりとスクレイピング・ブラッシングを行うことが重要になってくる。
春用のワックスの中には汚れを吸着し辛いように設計されているものがあるが、滑走面に取り残しがあると逆効果になってしまうので注意してほしい。

 

おススメのメンテMenu1:滑走面クリーニング+滑走処理+エッジ処理+ワクシング

おススメ度:★★☆☆☆
作業時間 :約2時間
使用用具 :彫刻刀(カッター)・エッジシャープナー・クリーナー・キッチンペーパー・ワックス・アイロン・ワクシングペーパー・スクレーパー・ブラシ(ブロンズ、ボア、ナイロン)、ふき取り用布

滑走面に目立つキズがある場合や、エッジが丸まっている状態の板をお持ちの方におススメのメニューだ。
しかし、エッジのメンテンスや滑走面の手入れなどは経験必要で、専門的な道具も必要になるため、本来はチューンナップショップに相談する内容だ。
チューンナップに出す時間が無い場合の暫定的な対処として選択肢に入れて頂きたい。

 

工程1:クリーニング

※滑走後にクリーニングをしている場合は省いて良い

1)ブロンズブラシでケバ・ゴミ取り
ブロンズブラシで滑走面をノーズからテールにかけてブラッシングする。
この時、あまり力を入れ過ぎないようにするのがコツだ。ブラシは毛先で汚れを書き出すため、あまり力を入れ過ぎてしまうと、毛が押しつぶされてうまく書き出せなくなってしまう。
2~3回ノーズからテール向けにブラッシングし、ゴミが出なくなったら、次の工程に進もう

2)クリーナーでふき取り
滑走面用のクリーナーをキッチンペーパーに染み込ませ、滑走面をふき取る。
この際、直接滑走面にクリーナーをつけるのではなく、キッチンペーパーに染み込ませて使用してほしい。
キッチンペーパーに汚れが付着しなくなるまでふき取りを繰り返し、キッチンペーパーに汚れがつかなくなったら、クリーニングは終了だ

工程2:滑走面処理

1)滑走面がめくれ上がったキズや、深く凹んだキズに関してのみ対処を行う。(浅いキズや凹みに関してはそのままで良い)

2)ささくれているキズは、カッターや彫刻刀でキズ口を綺麗に整える。芯材が見えてしまっている場合は補修材を使用しキズ口を埋めるのだが、事前にメーカーサイトで詳しい修理方法を確認してから実施しよう

 

工程3:エッジ処理

1)机やワックス台に板を置き(滑走面が上向き)、ノーズからテールに向けて軽くエッジシャープナーを滑らせる。一度に多くを削ろうとせず、軽い力で数回行うのがポイントだ
※エッジ処理の作業は側面のエッジのみ行い、滑走面側は行わない

 

工程4:ワクシング

1)ワックスを滑走面全体に生塗りする

2)滑走面の上にワクシングペーパーを置き、ワックスをペーパーの上に数滴垂らす

3)アイロンをペーパーの上に置き(設定温度は90度位、煙が出たら熱すぎということ)、滑走面全体にワックスをしみこませるよう、アイロンを動かす。このとき、1か所にアイロンを留めておかない事。アイロンの熱で接着剤が溶け、板が痛んでしまう場合がある

4)アイロンでワックスを染み込ませたら、常温になるまで冷やす

5)スクレーパーで余分なワックスを全て落とす。使用するスクレーパーはスクレーパーシャープナー等できちんと90度にしているものを使用すると、作業効率が格段に良くなる。
余分なワックスが滑走面に残っていると、汚れを吸着してしまうので、この工程はしっかりと行おう

6)スクレーパー作業が終わったら、ボアブラシ→ナイロンブラシの順でブラッシングしていく。ブラッシングは毛先でストラクチャーの中に詰まった余分なワックスを取り除くので、力をかけてブラシを押しつぶさないように注意しよう

 

おススメのメンテMenu2:滑走面クリーニング+ホットワクシング

おススメ度:★★★★☆
作業時間 :約1時間
使用用具 :クリーナー・キッチンペーパー・ワックス・アイロン・ワクシングペーパー・スクレーパー・ブラシ(ブロンズ、ボア、ナイロン)、ふき取り用布
滑走面とエッジ処理を行わないメンテンスで今回ご紹介するメニューの中では一番基本的なメンテナンスだ。
一般的なメンテナンスメニューではあるものの、『汚れが付き辛く、滑走性能が持続しやすい』という特徴がある。
おススメメンテ1程は手間はかからないが、効果が高いのでおススメだ。

 

工程1:クリーニング

※滑走後にクリーニングをしている場合は省いて良い

1)ブロンズブラシでケバ・ゴミ取り
ブロンズブラシで滑走面をノーズからテールにかけてブラッシングする。
この時、あまり力を入れ過ぎないようにするのがコツだ。ブラシは毛先で汚れを書き出すため、あまり力を入れ過ぎてしまうと、毛が押しつぶされてうまく書き出せなくなってしまう。
2~3回ノーズからテール向けにブラッシングし、ゴミが出なくなったら、次の工程に進もう

2)クリーナーでふき取り
滑走面用のクリーナーをキッチンペーパーに染み込ませ、滑走面をふき取る。
この際、直接滑走面にクリーナーをつけるのではなく、キッチンペーパーに染み込ませて使用してほしい。
キッチンペーパーに汚れが付着しなくなるまでふき取りを繰り返し、キッチンペーパーに汚れがつかなくなったら、クリーニングは終了だ

 

工程2:ワクシング

1)ワックスを滑走面全体に生塗りする

2)滑走面の上にワクシングペーパーを置き、ワックスをペーパーの上に数滴垂らす

3)アイロンをペーパーの上におき(設定温度は90度位、煙が出たら熱すぎということ)、滑走面全体にワックスをしみこませるよう、アイロンを動かす。このとき、1か所にアイロンを留めておかない事。アイロンの熱で接着剤が溶け、板が痛んでしまう場合がある

4)アイロンでワックスを染み込ませたら、常温になるまで冷やす

5)スクレーパーで余分なワックスを全て落とす。使用するスクレーパーはスクレーパーシャープナー等できちんと90度にしているものを使用すると、作業効率が格段に良くなる。
余分なワックスが滑走面に残っていると、汚れを吸着してしまうので、この工程はしっかりと行おう

6)スクレーパー作業が終わったら、ボアブラシ→ナイロンブラシの順でブラッシングしていく。ブラッシングは毛先でストラクチャーの中に詰まった余分なワックスを取り除くので、力をかけてブラシを押しつぶさないように注意しよう

 

おススメのメンテMenu3:滑走面クリーニング+ワックス生塗+ブラッシング

おススメ度:★★★★★
作業時間 :約30分
使用用具 :クリーナー・キッチンペーパー・ワックス・コルク・ブラシ(ブロンズ、ボア、ナイロン)、ふき取り用布

レジャーでスノーボードを楽しむ位であれば、十分なメンテンスと言えるメニュー。
先に紹介したメンテンスより、手間がかからず、なによりゴミが少なくて済む。今回ご紹介するメニューの中では一番現実的なのではないかと思う。

 

工程1:クリーニング

※滑走後にクリーニングをしている場合は省いて良い

1)ブロンズブラシでケバ・ゴミ取り
ブロンズブラシで滑走面をノーズからテールにかけてブラッシングする。
この時、あまり力を入れ過ぎないようにするのがコツだ。ブラシは毛先で汚れを書き出すため、あまり力を入れ過ぎてしまうと、毛が押しつぶされてうまく書き出せなくなってしまう。
2~3回ノーズからテール向けにブラッシングし、ゴミが出なくなったら、次の工程に進もう

2)クリーナーでふき取り
滑走面用のクリーナーをキッチンペーパーに染み込ませ、滑走面をふき取る。
この際、直接滑走面にクリーナーをつけるのではなく、キッチンペーパーに染み込ませて使用してほしい。
キッチンペーパーに汚れが付着しなくなるまでふき取りを繰り返し、キッチンペーパーに汚れがつかなくなったら、クリーニングは終了だ

 

工程2:ワックス生塗+ブラッシング

1)ワックスを板に生塗する。この際、余分につけ過ぎないようにして頂きたい。ワックスを板に擦り付け、ワックスの跡が残れば良い

2)滑走面全体に生塗が完了したら、コルクで滑走面全体を擦り、まんべんなくワックスを広げる

3)最後にストラクチャーに詰まったワックスをボアブラシ→ナイロンブラシの順で掻き出して終わり

 

おススメのメンテMenu番外編:滑走面クリーニングのみ

おススメ度:?
作業時間 :約10分
使用用具 :クリーナー・キッチンペーパー・ワックス・コルク・ブラシ(ブロンズ、ボア、ナイロン)、ふき取り用布

これは、エクストルーデッドベースの板のみに有効なメンテナンス方法だ。
エクストルーデッドベースというのは、安価な板の滑走面に使用される素材で、シンタードベースに比べてワックスが浸透しづらいという性質がある。その性質を逆手にとって『ワックスが浸透しづらいなら、汚れも尽きづらいはず』という発想からあみだされた裏ワザと思って頂きたい。
くれぐれもソール材を確認してから試して頂きたい。

 

工程1:クリーニング

※滑走後にクリーニングをしている場合は省いて良い
1)ブロンズブラシでケバ・ゴミ取り
ブロンズブラシで滑走面をノーズからテールにかけてブラッシングする。
この時、あまり力を入れ過ぎないようにするのがコツだ。ブラシは毛先で汚れを書き出すため、あまり力を入れ過ぎてしまうと、毛が押しつぶされてうまく書き出せなくなってしまう。
2~3回ノーズからテール向けにブラッシングし、ゴミが出なくなったら、次の工程に進もう
2)クリーナーでふき取り
滑走面用のクリーナーをキッチンペーパーに染み込ませ、滑走面をふき取る。
この際、直接滑走面にクリーナーをつけるのではなく、キッチンペーパーに染み込ませて使用してほしい。
キッチンペーパーに汚れが付着しなくなるまでふき取りを繰り返し、キッチンペーパーに汚れがつかなくなったら、クリーニングは終了だ

 

メンテナンスのポイント2:滑走中

これまで、しつこい位に春先の滑走性能を下げる要因について解説してきた。
滑走面についた汚れが原因なので、ゲレンデで滑っている時に、少しメンテナンスしてあげるだけで滑走性能はかなり回復する。
オススメのタイミングは昼食をとった後や、トイレ休憩時だ。
内容としては、滑走面のブラッシングと簡易ワックスの散布。といたってシンプルな内容だ。
ブラッシングに関しては、クリーニング時に使用するブラシ(ナイロン若しくはボア)を使い、ノーズからテールにかけて数回ブラッシングするのみで良い。表面上に付着したゴミを落とすのみなのだが、これだけでも効果がある。メーカーからは携帯に便利なポケットサイズのブラシセットが発売されているので、リュックの中に忍ばせておいても良いだろう。
簡易ワックスについては、ペーストタイプでもスプレータイプでもどちらでも良い。最近では軟らかい固形ワックスタイプが発売されているので、使いやすい物を選ぶと良いだろう。何も、つけ過ぎには注意して頂きたい。しつこいようだが過度なワックスは逆効果になってしまうからだ。

 

メンテナンスのポイント3:滑走後

滑走後のメンテナンスは、滑走面のクリーニングを行うのみととてもシンプルな物だ。しかし、このクリーニングを早めに行うのが重要だったりするので、注意してほしい。
雪に付着した汚れには、油分を含む物がある(樹液や排気ガスの汚れなど)、それら油系の汚れは放っておくと滑走材の奥の方に浸透してしまう可能性がある。
しっかりとクリーニングせず、その上に新たにワックスを塗ると滑走材の中に汚れを閉じ込めてしまうことになるので、できるだけ時間を置かずにクリーニングを行う事が重要になってくるのだ。
※工程は先に記載した通りのやり方と同じ

 

最後に

今回ご紹介したメンテンスメニューを行う際に用意しておくと便利なアイテムのご紹介

 
▪️ワクシングアイロン

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家庭用のアイロンを代用することも可能だが、専用のアイロンを使ったほうが良いだろう。

 
▪️ワクシングペーパー

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滑走面の保護という目的もあるが、これがあると無いとではワックスの使用量が全然違う。是非とも手元に置いておきたいアイテムだ。

 

▪️クリーナー

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このクリーナーは滑走面の表面にあるワックスのみ除去してくれるので、滑走面の奥に浸透したベースワックスまで除去することは無い。また、滑走面の痛みも最小限に抑えられているので、安心して使っていける。

 

▪️ブラシ各種

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アイロン・スクレーパーと同じくワクシングの基本アイテム。特に春先のシャバ雪ではストラクチャーを出しておく必要があるので、しっかりとブラッシングしてあげよう。

 

▪️スクレーパー(スクレーパーシャープナー)

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これが無いとワクシングが終わらない。常に角が90度に近い角度になるよう、スクレーパーシャープナーで研ぎながら使用するようにして欲しい。

 

▪️エッジシャープナー

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サイドエッジをメンテナンスするために使用する。プロ仕様のエッジファイルと違いエッジの角度を変える事がなく、バリを取る程度の効果に抑えられている。安定したターンをする際には必要になるアイテムだ。

 

▪️簡易ワックス各種

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使う時期によって使い分けよう

 

▪️携帯用ブラシセット

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ゲレンデで日中に使用するのに便利なブラシセット。これがあるだけで日中のパフォーマンスが全然違う。
 

Writer
乾 海老雄
乾 海老雄 チーフライター

元スノーボードインストラクターのIT系Webライター

長野や北海道、マウントフッド(アメリカ)、ウィスラー(カナダ)等
様々なスキーリゾートを転々とした後、東京に落ち着く。
現在はWeb制作を行う傍ら、スノーボード系のライティングを行う日々。
妻と娘の3人家族の35歳。

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